乱造する“繁殖屋”が悪いのか、言葉巧みにそれを売る生体販売ショップが悪いのか、それとも考えなしに犬猫を“購入”して、気にいらなくなったら捨てる飼い主が悪いのか、ともあれペットの殺処分はいまだになくならない。市区町村などの地域ごとに見れば画期的な成果を挙げているところもあるし、この20年で数自体が激減していることもまた事実ではあるが(環境省資料「全国の犬・猫の殺処分数の推移」より)、いまだゼロではない。
言うまでもなくペット(コンパニオン・アニマル)は、ウシやブタなどの産業動物や、ラットやマウスなどの実験動物とはまた違う一面を持っており、精神的にもっともヒトに近いところに寄り添う動物達だ(ペット以外の動物の殺処分についても、それはそれでいろいろな問題があるのだが)。
それがゆえにペットの殺処分の問題は、ほかの動物達の場合に比べてどうしても感情論が先走ることになりがちで、発展的な議論としてなかなか進みづらいという側面を持つ。しかし殺処分を取り巻く問題は広範囲にわたり、本質的には「可哀想だから」のひと言では片付けられないし、また片付けてはいけない問題なのだ。
環境省資料「全国の犬・猫の殺処分数の推移」(PDFファイルです)
他業種で普通に見られる“ジャーナリズム的メディア”が少ないこのペット産業において、殺処分問題に切り込む急先鋒といえば、朝日新聞の太田匡彦氏だ。AERA編集部での連載を元にして大幅に加筆した力作「犬を殺すのは誰か ペット流通の闇」の著者だといえば、ピンとくる人も多いのでは(ぜひ一読をお勧めする)。昨今では、朝日新聞デジタル(asahi.com)内のミニサイトとして存在したsippoを独立させ、自身の活躍フィールドを着々と増やしている。
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そんな氏が基調講演を行うシンポジウムが、3月最後の土曜日に東京で行われる。テーマは「人と動物の共生する社会の実現へ」。文字だけだと漠然としてつかみどころのないものに見えるが、中身は「動物殺処分における法的課題」となっており、非常に絞られたテーマになっている。
パンフレットによると、
私たちの目的は、いわゆる愛護動物の流通全体までを視野に、殺処分問題を法的かつ実効的に解決する道筋を探ること
とあり、一般的な議論とはまた違った話題が展開されることがみてとれる。パネルディスカッションも、太田氏、米山由男氏(一般社団法人全国ペット協会・名誉会長)、香取章子氏(一般社団法人ちよだニャンとなる会・副代表理事)、今西 保氏(環境省・動物愛護管理室室長補佐)という官公民をバランスよく集めた面々となっており、そこにコーディネーターとして島 明宏氏(公害・環境特別委員会副委員長)が入る。
まずもって殺処分で最大の問題となるのは、飼い主の遺棄であったり、崩壊ブリーダーなどの不法投棄であることは言うまでもない。そしてそもそも、あまりに長くなってしまうので細かいことをすべて書くことはしないが、殺処分とは、本来動愛法(動物の愛護及び管理に関する法律)においては前向きには想定されていない“処分”だ。もっと言うならば、殺処分をする法的根拠というものが薄いまま、毎日粛々とガスが送り込まれて、いくつもの命が失われているのだ。
またペットとはちょっと話が逸れてしまうが、大規模災害時の大型家畜の殺処分問題や、実験動物の殺処分についてなど、「動物の殺処分」にまつわる問題は意外に広範囲にわたり、倫理と法規制、そしてアニマル・ウェルフェアの概念がせめぎ合う重要なテーマとなっている。むろん、ペットにおいてもそれは例外ではない。
「災害時の家畜を保定して毒物で殺すなんていう労力と時間はかけてられないので、どんどん銃殺すべき」と発言した某団体の理事長もいるが(悪意を持って発言したわけではないと思いたい)、結局のところ殺処分の問題は「人と動物がどのように共生していくことを目指すのか」という命題に行き着く。まさに本シンポジウムのテーマだ。
そもそも犬について言うならば、殺処分の数は確かに減っているものの、状況は芳しくない。
犬の数が減っていることに焦る業界団体は「このままだと2400億円の経済損失を生み出してしまう」「これからはお年寄りに犬を売ればいい」「業界団体に対して国が助成金を出せ」「売れ残った犬は行政が引き取れ」「いま殺処分されている犬を救うより、新しい犬を増やすべき」などと、倫理のかけらも感じられない尋常じゃない発言を次々と繰り出しているので、この先に何もアクションが起こされなければ、殺処分の状況がじわじわと悪化していくことは確度が高いと思われる。
お年寄りにとって犬猫が癒やし以上の効果を生むであろうことは、実験と研究を経るまでもなく想像に難くないが、だからといって、大量生産/大量消費/大量遺棄を繰り返してきた業界団体が、懲りることも悪びれることもなくこんなレベルの発言をしているようでは、この先の見通しも決して明るいものであるとは思えない。
いかなる命であれ無駄に失われていくことは避けるべきだし、ペットの殺処分の問題にしてもゼロになるーー少なくとも毎年減っていくーーことが理想なのは疑いようがない。dogplus.meはその名のとおり犬のサイトだが、現実として殺処分の75%は猫(しかもほとんどが子猫)であり、殺処分問題全体を考えるときには、地域猫問題などを含めた、犬とは違うアプローチも必要になることが十二分に考えられる。
そういういろいろなことを前に進めていこうと思うと、多くの人達の善意と時間を使ってバケツから溢れた水をすくい続けているだけではまだ不十分で、何か抜本的な解決を見つける必要があるだろう。そんな解決への糸口が見つかるかもしれない、この法的観点からのアプローチに興味がある人は、ぜひ聴きに行ってみよう。
東京弁護士会による公式紹介ページ
環境問題シンポジウム
人と動物の共生する社会の実現へ ー動物殺処分における法的課題ー
■日時
2016年3月26日(土)
開場 午後1:40〜 開始 午後2:00〜
入場無料・事前申し込み不要
■会場
弁護士会館3階 301ABC
(地図→https://goo.gl/maps/TKvmDVLrtsA2)
丸ノ内線 霞ヶ関駅 B-1b出口
有楽町線 桜田門駅 徒歩7分
JR 有楽町駅 徒歩15分
■主催
東京弁護士会
■問い合わせ先
東京弁護士会 人権課 TEL 03-3581-2205
■基調講演
太田匡彦氏(朝日新聞)
■パネルディスカッション
パネリスト
太田匡彦氏(朝日新聞)
米山由男氏(一般社団法人全国ペット協会・名誉会長)
香取章子氏(一般社団法人ちよだニャンとなる会・副代表理事)
今西 保氏(環境省・動物愛護管理室室長補佐)
コーディネーター
島 明宏氏(公害・環境特別委員会副委員長)
人と動物の共生する社会の実現へ ー動物殺処分における法的課題ー
■日時
2016年3月26日(土)
開場 午後1:40〜 開始 午後2:00〜
入場無料・事前申し込み不要
■会場
弁護士会館3階 301ABC
(地図→https://goo.gl/maps/TKvmDVLrtsA2)
丸ノ内線 霞ヶ関駅 B-1b出口
有楽町線 桜田門駅 徒歩7分
JR 有楽町駅 徒歩15分
■主催
東京弁護士会
■問い合わせ先
東京弁護士会 人権課 TEL 03-3581-2205
■基調講演
太田匡彦氏(朝日新聞)
■パネルディスカッション
パネリスト
太田匡彦氏(朝日新聞)
米山由男氏(一般社団法人全国ペット協会・名誉会長)
香取章子氏(一般社団法人ちよだニャンとなる会・副代表理事)
今西 保氏(環境省・動物愛護管理室室長補佐)
コーディネーター
島 明宏氏(公害・環境特別委員会副委員長)