灼熱のラスベガスで訪ねた、Nevada SPCA。バタバタと忙しそうな中、お世話になりました |
日本の保護団体が、懸命に保護譲渡活動を進めているように、アメリカにももちろんそういう人は大勢いるし、保護施設の数も多い。アメリカ(に限らず先進諸外国は)法的な側面からのバックアップも強く、日本よりは整った環境だと我々は思っているのだが、実際のところはどうなんだろう? それを聞いてみたいと思い、真夏のラスベガスで保護施設を訪ねてみた。
今回訪ねたのは、ラスベガスにあるNevada Society for the Prevention of Cruelty to Animals(NSPCA)。夏の昼間は42℃にまで気温が上がる砂漠の街、灼熱のラスベガスにいくつかある保護施設のうち、No-Kill(殺処分なし)を謳っている保護施設だ。
突然の来訪だったうえに(その日も42℃まで上がっていた)土曜日だったので、施設内は一般人でごった返していて職員の人も慌ただしく、なかなかゆっくり話を聞くことはできなかったが、2人の職員からある程度の話を聞くことができた。
しかしアメリカは広い。なので、もちろんこれがアメリカを代表する保護状況というわけではないと思うが、「どこも同じような悩みを抱えているんだな」ということだけは分かる。興味のある人はぜひお読みいただきたい。
なお、職人の人達は本当に忙しく、前半と後半で話を聞いた人が違ううえに、歩きながらの会話なのでやや唐突な部分も多い。そこは予めご了承いただきたい。それではまずは前半から。
(後編)アメリカの動物保護は,どういうポリシーで運営されているのかーーラスベガスの保護施設を訪ねてみた(2)
NSPCA(Nevada Society for the Prevention of Cruelty to Animals)公式サイト
右が最初にお話を聞かせてくれたLani Serum氏。左は、後半に登場するApril Chandler氏だ。真面目で職人肌のSerum氏に比べて、ひたすらによくしゃべって脱線するChandler氏の組み合わせは、取材してる側としては面白かったです |
Lani Serum氏(以下、Serum氏):
わざわざ日本から来てくれたのに慌ただしくてごめんなさい。
dogplus.me編集部(以下、dpm):
いえ、土曜日の忙しいときに来てしまってすみません※。よろしければ施設についていろいろ聞かせてください。
※この施設は一般に広く開放されているが、土曜日は多くのお客さんが、犬や猫、ウサギなどに会うために訪れ、スタッフはてんてこ舞いだ
Serum氏:
いいですよ。じゃあまず私の担当のウサギエリアから。歩きながら話をしましょう。
dpm:
ウサギだけでエリアがあるんですね。
Serum氏:
アメリカは、ウサギがとてもたくさん捨てられるんです。なぜだか知ってます?
dpm:
……イースターですか?
Serum氏:
そう! 子供が欲しがって買うけど、すぐ飽きて捨てちゃう。日本ではそういうことないですか?
dpm:
犬でも猫でも飽きて捨てちゃうトンデモない人はいます。
Serum氏:
そうなの……じゃあ日本と同じですね。生き物なのに、“モノ”だと思ってる人はどこにでもいるということなのね。だから私達も、ウサギはいっぱい引き取ります。いま(7月半ば)はいいけど、イースターの時期(毎年3月末くらい※)になると、もう施設中ウサギ。どこ見てもウサギ。
※イースターの日付けは厳密に定義されており、「春分の日を過ぎて最初の満月から数えて一番始めの日曜日」と決まっている。ウサギはイースター・エッグを運んでくる動物で、イースターというイベントには欠かせないモチーフだ。卵やお菓子、おもちゃなどを、子供達に届けてくれる……らしい。なるほど、子供も欲しがるわけだ。
dpm:
そんなに捨てられるんですか……。
Serum:
きっと日本も同じような感じだと思うんですが、ウサギが捨てられる理由は様々です。子供がアレルギーになってしまって家に置いておけないとか、引っ越しをすることになったのでもう要らないとか、そういう身勝手な理由ばっかり。
dpm:
抱えてる問題はアメリカもあまり変わらないんですね。
ウサギルームにもひっきりなしに人が訪れて、ウサギ担当者はてんてこ舞い。ケージが全部分かれていることが見てとれるだろうか。日本でもカジュアルなブームになっている動物だが、アメリカにもこんなにも愛好家がいたんですね。知らなかった |
Serum氏:
そういうことになりますね。悲しいけど。
さてウサギは、もちろん1羽ずつみんな違うケージに入れます。動物保護とか譲渡とかっていうと、どこの国でも犬とか猫が有名だけど、我々はちゃんとウサギも保護して健康を管理して譲渡してます。ウサギには、私みたいなウサギ専属のスタッフがついていて、迎えたいと思っている家族と会って話をして、どういう子がいいのかをちゃんと話し合ったりしますし。
dpm:
ウサギは割と神経質な動物だと聞いたことがあるので、譲渡のときはかなり気を遣うのでは?
Serum氏:
そうですね。ウサギを迎えたいと思っている家族は、すでに家にほかの動物がいることも多いので、彼らとキチンと仲良くできるのかはとても重要な問題です。だから、まずその動物をここまで連れてきてもらって、安全な状態で会わせたりしますし。
dpm:
さっきちょっと見かけて気になったんですけど、ウサギにも全部マイクロチップを入れるんですか?
Serum氏:
もちろん! ウチ(NSPCA)で全部入れますよ。とっても大事なことだし。そういうことも全部済ませたうえで、ここにはいつでも譲渡可能なウサギがいっぱいいるんだけど、いまは……確か全部で200頭くらいです。
dpm:
そんなに!
Serum氏:
ウサギだけじゃなくてチンチラとかハムスターもいますよ。
dpm:
チンチラは日本じゃまず聞かないですね。でもそのぶんだと、もしかして動物はどんなものであっても引き取ることにしているんですか?
Serum氏:
ごめんなさい。は虫類だけはちょっと難しいんです!
dpm:
それは……たぶん好きじゃないとかそういう理由じゃないですよね(笑)。
Serum氏:
もちろん違います(笑)。彼らをキチンと管理できる医療体制と、は虫類にできるだけ苦痛を与えないケージなどの住環境が整えられないから、というのが大きな理由なんです。あなたも動物が好きなら知ってると思うけど、は虫類を飼うのは本当に大変なことですから。比較的飼育方法が確立しているものならいいんですが、それ以外となると難しくて。
土曜日の昼間だったので、いろんな人が動物を受け入れにやってくる。受付で書類を作る担当者まで駆り出されて、フォスターのお相手だ |
dpm:
そうですね。昔グリーンイグアナを飼ってましたが、温度管理とかホントに大変でした。電気代が大変なことに。
Serum氏:
そうでしょう?(笑) 何十匹ものは虫類を引き受けて世話をするのは、ちょっといまの私達では厳しいんです。
dpm:
入口に猫が並べられていますけど、今日はイベントか何かですか?
Serum氏:
土曜日なので、猫の受け取りの日なんです。注射も完全に済んでいて健康チェックもバッチリで、いつでも新しい家に行く準備が出来ています。
dpm:
あの猫を持ってきてる人達は?
Serum氏:
とりあえず1週間一緒に暮らしてみて、最終的な判断をするんです。今日もすでに、2頭の新しい家族が決まったんです。嬉しいです!
dpm:
アメリカでは猫は外飼いですか? 室内ですか?
Serum氏:
アメリカは広いので、もしかしたら地域によって差があるかもしれませんが、少なくともこの近辺では、室内飼い以外ありえないと思っています。外は危険も多いし、他人に迷惑をかけることもあるでしょうし、そして何より……。
dpm:
何より?
Serum氏:
ラスベガスは暑いですから!
dpm:
あぁ……確かにこの暑さはちょっとシャレにならないですね。※
※ラスベガスの年間を通した平均気温は20℃ほど。夏場の日中は、当たり前のように40℃を超える。
こちら、本文にも登場するチンチラ(ホンモノを初めて見ました)。通路にこっそり置かれていたが、通りがかる人は皆足を止める |
病気の動物こそ目立つ位置に
dpm:
ちなみに猫達は、どういった経緯でここに来ることが多いんでしょうか。
Serum氏:
野良猫を捕獲したり、誰もいない廃屋に住んでいるネコを捕獲したり……という感じでしょうか。
dpm:
ということは通報とかもあるということですか?
Serum氏:
ありますよ。通報によって救われる命も多くあります。
dpm:
その場合って、自分達で通報を受けて捕獲に行くんでしょうか。
Serum氏:
いえ、アニマル・コントロール(日本で一般的に言うところの“アニマル・ポリス”)が現地に行って捕獲して、我々のところに連れてきてくれます。
dpm:
アニマル・コントロールいいですね! 日本にはない組織なので羨ましいです。彼らは、通報を受けて捕獲する以外にどんなことをしてるんですか?
Serum氏:
家に何頭まで動物がいてよいかとか、飼い主がキチンと動物を飼育しているかとか、そういうことを、その名のとおりコントロールすることが彼らの仕事です。
dpm:
コントロールということは、法的権限が?
Serum氏:
はい、あります。彼らはとても仕事熱心なので、彼らが連れてきた動物が、以前ここにいた動物だったりすることも多くて、悲しい気持ちになることもあります。でもやっぱり、彼らは動物のことを一番考えているんですけどね。
……ここからが猫のエリアです。普通はここでadoption(譲渡)が行われます。
猫の部屋はこんな感じ。こういう部屋がいくつもあって、来場者は好きなときに好きな部屋に入って、好きな猫と心ゆくまでふれ合える |
dpm:
ということは、週末にはここが開放される感じなんですか?
Serum氏:
ちょっと違います。ここNSPCAの建物は、一般の来場者がいつどこに行ってもいいんですよ。
dpm:
出入り自由?
Serum氏:
そう。例えスタッフがいなくても、いつ誰がどこに入ってもいいんです。監視の目が光っているところで、自分が迎える動物を探すなんてイヤでしょう?(笑)
dpm:
それはそうですが、でもちょっとセキュリティ的にどうなんでしょう。
Serum氏:
私達はみなさんを信用しています。ただ、空けたドアは必ず閉めることと、部屋の移動のときは必ず手を消毒すること、この2つだけは守っていただきたいです。これさえ守ってくれれば、どこでどの動物とどれだけ接しても構いません。どうかそれによって、自分にとってのパートナーを見つけてほしいです。
こんな感じで複数の猫部屋が設置されている(この写真は極一部だが)。入口脇に設置してるボトルが消毒液。「それだけは忘れないでやってほしい」とのこと |
dpm:
なるほど。
チンチラも結構いるみたいですけど、やっぱりチンチラを迎えるには、何かほかとは違うルールがあったりしますか?
Serum氏:
ご名答! まず、絶対に2頭以上引き取ってはいけません。それと、どういう意図で家に迎えようとしているか、念には念を入れて聞き取り調査しなくてはいけません※。それが私達の内部ルールです。
※チンチラはネズミの仲間(齧歯目)。体長25cm程度で大変可愛い生き物だが、毛皮用としても有名。寿命も15年ほどあって夜行性で、飼育そのものも結構難しいという。
dpm:
でもチンチラであればそれは仕方ないですね。……この子はなんで別なケージに?
Serum氏:
ここに引き取られたときに健康診断をひととおりやってみたら、血液検査でkidney(腎臓)がだいぶ痛んでいることが分かったので、別なケージにしてフードも変えてあります。
dpm:
なるほど、それでk/d(ヒルズの腎臓用療法食)をあげてるんですね。
Serum氏:
糖尿病の動物なんかもけっこう多いですね。ホントに人間と同じです。一日2回のインシュリンを打たなくてはならず、引き取る家族も大変だと思いますが、それを理解してもらわないとなりません。
dpm:
病気の動物であっても引き取ってくれる家族は多いものなんでしょうか。
Serum氏:
多いですよ。とても多いです。
病気が重篤だったり怪我をしていたりする動物を、見えない場所に隠して「健康で」「可愛くて」「若い動物」ばかりを前面に打ち出して譲渡実績を稼ごうとする保護団体もあるようですが、ウチはそういうことは一切しませんし、逆に問題のある子は、誰もがよく目に入る位置に配置することにしています。
dpm:
日本でもたまにそういう話が聞こえてきますが、それって差別だと思うんですよね。もちろん、病気や怪我の動物がなかなか里親が見つからないというのはそのとおりだとは思いますが。
Serum氏:
そう。よく見えるところに配置して目立たせないと、その子達は一生を施設で過ごすことになってしまいます。それを許容していたら、それこそ私達が何をしているのか分からなくなってしまいますから。
ちょうど若い夫婦が気にいった猫がいるからと入っていった。「どうぞあなたも好きなところに入って写真に撮ってね」と言われたが、それくらい、自由 |
本当のお金持ちが多いラスベガスという環境は、痛し痒し
Serum氏:
そしてここが、爪がない猫のための部屋です。
dpm:
爪がない……って、病気か何かですか?
Serum氏:
私達にはさっぱり分かりません。でもこれは人間によって抜かれたものです。
dpm:
人為的でしたか……。
Serum氏:
こんなことをする人がいること自体がまったく信じられません。あなたもそうでしょう? でも実際に、こうして一定の数いるんです。
dpm:
犬の声帯を取っちゃうとか猫の爪を抜いちゃうとか、そんなことが本当に行われてるなんて思いもしませんでした。
Serum氏:
引取希望の家族へのアンケートに「猫の爪は危険なので取ろうと思っていますか?」という質問があるんですが、そこに「Yes」と答える人が結構多いことに驚かされます。
dpm:
えええ……。
土曜日は猫の日。施設の入口付近には、絶賛里親募集中の猫が、新しい“家”をいまかいまかと待ち受ける |
Serum氏:
北欧製の高い家具で爪を研いじゃうとか、高価なカーペットをダメにしちゃうとか、お父さんのポルシェの上で伸びをしちゃうとか、たぶんそういう理由で爪を抜くんでしょうけど。
dpm:
そういうことがイヤなら飼わなきゃいいと思うんですけど……。「赤ん坊が泣いてうるさい」ってキレるようなものでしょう。
Serum氏:
Exactly(まったくそのとおりです) きっと猫より家具のほうが可愛いんですよ。
dpm:
日本にもそんな人いるのかな……。
Serum氏:
ここはラスベガスですからね! そういう人はいっぱいいますよ。大きな家に、高級家具をいっぱい持って。
dpm:
確かにお土地柄はありそうです。
Serum氏:
でもね、逆の人も多いんです。そこがラスベガスのとってもいいところ。「いいのよ家具なんて。使えなくなるわけじゃないし」「いいのよ、カーペットなんて買い直せばいいんだから」っていうホンモノのお金持ち。そういう人が多いのもこの街のいいところなので、痛し痒しというところでしょうね(笑)。
あ、来た。じゃあちょっと犬担当のAprilに代わりますね。バタバタしててごめんなさい。
dpm:
いえ、ありがとうございました。
(後編)アメリカの動物保護は,どういうポリシーで運営されているのかーーラスベガスの保護施設を訪ねてみた(2)
NSPCA(Nevada Society for the Prevention of Cruelty to Animals)公式サイト
やはりラスベガスの象徴といったら、これかな? |
ーーー2016年7月16日収録